指輪
・・・ 毎日毎日ジュエリーを扱う生業ながら、ふとしたときに指輪をするということの意味を考えさせられることが度々あります
一番ポピュラーな意味としては、なにかの記憶となる想い出、自分自身にとっての大切なメッセージなど、指輪に込められた様々な意味や誓いなどをあらわすモノとして、ひと昔前にダイヤモンドジュエリーの販促活動で使われていた「人生のマイルストーン」というような意味合いがやはり近いところになるでしょうか・・・
そんな大切な想い出の指輪にトラブルが発生し、当店へ初めてお越しになられたお客様がいらっしゃいました
ある日、毎日着けたままの指輪を外そうとしたところ、なぜか外しにくく、やっと外せたと指輪を見たらこのような有様でびっくりされたとのことでした
すぐにこの指輪を購入したお店に慌てて出向いたところ、修理をするよりも新規に買い直しをした方がよろしいのではないでしょうか…とアドバイスを受け、ただ何十年も経っているのでまったく同じ指輪は現在扱いが無く、似たような指輪を数種類見せてもらったとの顛末をお聞きしました
そしてその帰り道で当店を見つけ、わらをも掴む気持ちでもう1軒相談してみようと入店をされたようでした
お客様の気持ちとしては、この指輪自体になにかしら意味があるご様子で、新規に似たデザインの指輪を購入するのでは、その意味合いがまったく違ってしまうとのことでした
指輪を拝見すると、とても変形が著しく、ダイヤモンドも2石外れ紛失、1石は指輪に留まったままで半分に欠けている状況で、お客様はご存知ではありませんでしたが指輪内側にPt 1000 の刻印がある純プラチナ製であることを指摘させていただき、恐らくお客様が想像しているよりも指輪の耐久度と磨耗に対して弱く、全体的に指輪全周に無数の打撃痕や擦過キズが見られることをお伝えしました
最初に相談された購入ショップのスタッフさんと修理に関しては同じような見解となりますが、されどこの指輪自体に大切な意味があるという事情をお聞きしてしまうと、どうにかして修理することができないかと考えました
お客様には修理すること自体は可能でも、修理後の一番の問題はこれから先も毎日着けたままでは指輪が今迄よりも耐久度が確実に劣り、ダイヤモンドが外れたりすることが予測されると言う点なのですと詳しく説明をいたしました
その上で再度この指輪にこだわるお気持ちを伺ってから、修理より費用がかさむ代替え案をご提示させていただきました
まずはお客様の歪んでしまった思い出の指輪をなんとかほぼ元の形状に復元すると同時に、留まっていたすべてのダイヤモンドを外しました
そして復元した元指輪を原型として使い、新たにプラチナ900 素材での指輪枠を新規に製作し、外したお客様のダイヤモンドから再使用可能な22粒をメインの部分にして石留め、足りない3粒を当店で石合わせ対応して、全25粒のスリークォーターのエタニティ指輪に生まれ変わりました
最終的には少し費用がかかってしまいましたが、お客様の大切な思い出は継続しつつ、再度大切な指輪を毎日外さずお使いいただけることにたどり着きました
ご相談の途中で、お客様が右手の指に幅広タイプのイエローゴールド指輪をされていることに気づき、曲がってしまった指輪についたひどい打撃痕状況から判断して、おそらく拍手や手拍子の際に純プラチナ製の指輪がイエローゴールド指輪と連打されて、今回のようなトラブルが発生しているはずとお伝えさせていただきました
お客様からも指輪が抜けなくなる直前に、たしかに娘さんと一緒にコンサートへ行きたくさん拍手をしたとお聞きし、これからは大切な25粒のダイヤモンド・エタニティ指輪を今まで以上に大事に使います…と、笑顔をいただきました