■硬すぎ、ボテボテ、内部の気泡…次から次へと難題が
硬度を下げるにあたって、まず試されたのが「焼きなまし」という方法だ。金属を一定の温度にしたあと、冷ますと軟らかくなる…はずなのだが、ならなかった。これは予想以上の難敵だ。
Ptauのコンセプトであるプラチナと金で1対1という配合率は変えられないため、それ以外の温度や時間、材料を混ぜ合わせるタイミングなど、通常であれば管理しないような項目まで細かく条件を変え試行錯誤を繰り返すことで、なんとか道筋が見えてきた。
しかし、それでもまだ「ボテボテ」の素材である。普通は溶解することで「サラサラ」「トロトロ」、そうでなくとも「ドロドロ」ぐらいにはなるのだが、溶けが悪く、流れが悪いため、内部に巣(気泡)ができやすい。
さらに、ここでも硬さもジャマをする。鍛造製法で後から力を加えて巣を潰そうにも、硬いので完全には潰れない。圧延中にバックリ割れてしまうようなことは少なくなったものの、指輪にするために削り出すと次々に巣が出てきて、良品になるのは1~2割。これではとても商品にはならない。
だが、ここであきらめるわけにはいかない。何度も何度も何度も、ありとあらゆる条件を変えながら溶解試験を繰り返し、なんとか製品化に耐えうるだけの良品が取れるようになってきた。ここまでくればもうひと息、だといいのだが。
巣(気泡)があると、なぜ悪いのか?
強度が劣るほかにも、鍛造製作過程の切削削り出しで、巣があると即不良となり、最終段階での不良発生はコストにも、お客様への納期にも多大な影響を及ぼし、生産ラインとして最悪な事態を招くため、開発担当者として品質管理上許せないポイントでした。
ヨシムラマリ
神奈川県横浜市出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手がける。
著書『文房の解剖図鑑』(エクスナレッジ)
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ジュエリー製作現場での、巣(ス)ゴマ巣との闘い
貴金属を加工しジュエリーを製造する過程で、ろう付けやキャスト(鋳造)などにより発生する微細な空洞、即ち『巣』は完成品の耐久度や美観を損ねる原因となることがあります
貴金属を溶かし、液化して型に流し込む作業により、どうしても空気を巻き込むために、貴金属地金の内部に空洞である巣が生まれてしまいます
もちろん出荷される前に表面的な巣、特にゴマ巣とも呼ばれる微細な気泡の穴は、レーザーなどを使用して潰していきますが、深部(地金内部)にある空洞は、出来上がり後では処置がなかなか難しいため、巣が出来ないよう鋳造(キャスト)の技術を高め、工夫を続けている歴史があります
他方、鍛造(たんぞう)削り出しと呼ばれるワッシャー鍛造は、地金素材を何度も圧延することで、金属組織の密度を高めると共に、内包する気泡(巣)などの内部欠陥を圧着している為、素材の強度や硬度が増します
PILOTブランドの結婚指輪は、鍛造製法により、素材開発から完成までのすべての工程を、パイロットコーポレーション平塚(神奈川県平塚市)工場にて造られ、全国取り扱い販売店へと出荷されています
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