《万年筆と指輪の意外な共通点》
筆記具メーカーであるパイロットが、なぜ指輪を作っているのか。
それは、1973年にある社員が「万年筆のキャップを輪切りにしたら指輪になるのでは?と思いついたから」と言うのは、ウソのような本当の話。
万年筆と指輪、一見すると全く異なるもののようだが、万年筆を作ることで培われてきた基礎技術は、意外にも指輪の製造と深く結びついている。
例えばペンの先端であるペンポイントには、紙との摩擦に耐えられる硬さが求められる。しかし主原料のイリジウムには硬いが衝撃にもろいと言う弱点がある。
この性質を補うため、他の金属などを加え摩擦に強く耐久性も高いイリドスミンと言う合金にするのだが、この「異なる性質の金属を組み合わせて新しい素材を生み出す」合金の技術が、指輪作りにおいてもパイロットの独自性になっている。
合金だけではなく、金属の加工技術も、万年筆の製造を通じて磨き上げられたものだ。
14金などの貴金属を緻密なペン先として加工したり、また小さいものでは直径約0.7ミリと言うペンポイントのイリドスミン球をペン先に溶接したりするのには、高い精度の技術が欠かせない。
それに万年筆には、宝飾品と同じく、装飾的なデザインと、磨きや刻印など仕上げの美しさも求められるもの。
そう考えれば、万年筆のメーカーが指輪を作るのも、実は理に適ったことだったのだ。
ヨシムラマリ
神奈川県横浜市出身。子供の頃、身近な画材であった紙やペンをきっかけに文房具にハマる。現在は会社員として働くかたわら、イラスト制作や執筆を手がける。
著書『文房の解剖図鑑』(エクスナレッジ)
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〈深絞りと呼ばれる万年筆軸とキャップ部分の製作過程画像↓〉
〈↑ある社員が輪切りにしたら指輪を作れるのでは?と思いついたところから、パイロットの指輪作りの歴史が始まりました〉
『パイロットでは、1974年に日本国内では例のない100分の1ミリレベルの精密加工技術をいち早く導入し、ピアスのキャッチ金具の製作や、1984年には日本メーカーとして初の貴金属製ミラーボールパーツの開発生産に成功し、ジュエリー分野での足がかりを固めました』